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「は……? だれ、これ」
まじまじと見ようとしたオレの目の前から、サッとスマホが姿を消す。
「可愛いでしょ、オレの恋人。あんま見ないでね、減るから。あと、手ぇ出したら承知しないよ」
にこりと笑う颯真にあんぐりと口が開く。ほとんど一瞬しか見えなかったけれど、なんとなく分かる。あれはたぶん、男だった。
「なに……? ……え? だって……お前も大概女の子とっかえひっかえ……」
「人聞きの悪い言い方しないでよ。とっかえひっかえなんかしてないから」
全部オレがフラれてたんだよ、としかめ面する颯真が、スマホのディスプレイを見つめてふにゃりと笑う。見たことのないその笑顔はやけに幸せそうで、二の句も継げずに颯真を見つめるしかない。
「……オレもねぇ、別に男が好きな訳じゃないよ。稔とどうこうなるとか考えたことないし、渉に何かしたいとも思わないしね。……特別だったんだよ、司だけが」
照れ臭そうに笑った颯真が大事そうに呟いたのは、以前に聞いたことがある名前だった。
「……なんで、そんな話……」
「切羽詰まってる感じだったから」
「……」
「後、こないだのお礼っていうか……みんなに迷惑かけたけど、背中押してもらって上手くいったからね」
「……そうか」
上手く行くパターンもあるのかと拍子抜けしたのは事実だ。とはいえ、だったら自分も上手く行くかもなんてそんな勘違いはしないけれど。
「オレはたまたま上手くいってるパターンだと思うからさ。そんなに切羽詰まってるなら、ちょっと距離置いたりしてもいいんじゃない? って思って。渉スキンシップ多いし、結構キツイでしょ」
「……そうやねんけどな……距離置こうとしたら置こうとしたで……アイツ、泣きそうな顔すんねんよなぁ……」
「あぁ……惚れた弱みってやつだね」
「……くそ。あんな鈍感童貞になんでオレが振り回されなアカンねん……」
頭をぐしゃぐしゃと乱しながらぼやけば、稔って意外と尽くすタイプなんだね、とからかう声が返ってくる。
「……じゃなきゃ晩ごはんせっせと作んないよね」
「…………明日さぁ、暇か?」
何か思い当たる節でもあるのか、ほんの少し照れ臭そうに笑った颯真を見ながら、すがるような声が出てしまった。
「明日? まぁ、うん大丈夫だよ」
「一緒に飯食うてくれへんか? ……あぁ、ほら、こないだ渉が言うとったお好み焼きパーティーとか……」
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