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おはよぉ、と方々から声をかけられて、おはよ、と返しながら、目的の人物を探してキョロキョロと視線を動かす途中、友人である瀧川颯真を見つけて大きく手を振った。
「おはよー颯真! なぁなぁ、稔知らねぇ?」
「あぁ、おはよ、渉。稔ならさっき見たけど……なんか誰かに用事でゼミ棟行くって」
一限は出るってさ、と付け加えた颯真が、でも、と苦笑いに顔を歪ませる。
「稔、怒ってたよ」
「ふぇ? なんで」
「昨日、代返頼まれてたんだって?」
「あ~……、あ~……いや、オレも悪いと思ってるんだけどな?」
「それは本人に言わなきゃ」
もごもごと言い訳を並べようとしたのに、苦笑いを浮かべたままの颯真が遮るように呟いた正論に、ぶぅ、と唇が尖った。
「てゆーかさ! 颯真も起こしてくれたら良くない!?」
「えっ!? オレ!?」
「だってさぁ? おんなじ教室にいたじゃ~ん! オレも欠席扱いだよ!? 起こしてくれたってさぁ」
「えぇぇ」
昨日、稔に代返を頼まれて意気揚々と臨んだ講義は、講師が電車の遅延に巻き込まれて15分繰り下げて開始になった。──15分だ。寝るに決まっている。同じ教室には颯真や共通の友人である今藤洋平の姿があったことも油断を誘ったのだろう。起こしてくれるだろうと信じていたのに、結局目が覚めたのは講師が帰ってしばらくしてからだった。90分丸々寝ていたことになる。
「なんでみんな起こしてくんないんだよぅ」
「いやいやいや! 一番後ろに座るからじゃん! オレ前の方にいたの知ってるでしょ!? 帰ろうと思って出口に向かってたら渉が寝てるんだもん、ビックリしたよ」
「なんで前に座るんだよ、真面目か!」
呆れて笑う颯真にジャレつくように抱きついて、昨日の失態を自分だけのせいではないことにしようとしていたのに
「──責任転嫁すんなドアホ!!」
「ぃでっ!?」
思い切りのいい平手が太ももに落ちてきた。
「あ、稔」
笑いを含んだ颯真の声にあたふたと振り返れば、拳を握りしめて仁王立ちする杉崎稔がいて、探していたはずなのに隠れたくなった。
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