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「別に離さなくていいし、ほだされた訳じゃねぇよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃねぇし!」
「コクられたら断れん言うとったやないか」
「あれはっ…………あれはそもそも、からかわれてたんだよ。嫌なこと思い出させんなよぉ」
「からかわれたァ?」
「童貞のオレを弄びたかったんだってさ」
「ンやとそのオンナ、次会うたらタダじゃおかんぞ」
当事者のオレよりも怒る稔がボスボスと布団を殴る。
「まぁまぁ、オレもバカだったなぁって思ってるよ。……颯真にさ、大事にしなよって言われてさ。でも大事にするってなんだろって全然分かんなくてさ。とにかく優しくしてたんだけどさ、結局なんにも考えてなかったってことなんだよな。その子がどうしたら喜ぶのかとかそういうのを考えなきゃダメだったのに、全然考えてなかったんだと思う」
「……ふぅん?」
「オレはさ、稔には傍にいて欲しいし、出来たら笑ってて欲しいし、旨い飯は一緒に食いたいって思う」
「…………結局飯か」
「違うって! お前の飯は世界一旨いけどさ、お前と食うから旨いんだって、もう分かってるから」
「ふん……まぁ今はそんくらいで許しといたろ」
照れ隠しの手のひらが乱暴に頭を撫でて離れていく。
「よし。ほんなら朝飯食うてガッコ行くか」
「やった! 飯!」
「…………ホンマに。やっぱりお前、オレの飯が目当てやろ」
呆れた声を出した稔の顔を覗き込む。
「でもさ、胃袋を掴むっていうじゃん。そういう意味ではさ、もう絶対、稔から離れらんねぇ」
「…………さよか」
チッと舌打ちして顔を逸らした稔の耳が少し赤い。可愛いとこもあるじゃねぇかよ、とこっそり笑ってベッドから飛んで出た。
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