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地下鉄のドアが開き、乗客がゾロゾロと降りていくのを横目で見ながら、ボクは"シュ"と対峙する。
彼らがボクを襲うことは多分ないだろう。
けれど、それだけでは単に、窮地を凌いだだけに過ぎず、問題の解決には至らない。
「キミ達を言霊に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。お詫びに、ボクにキミ達を地下鉄から解放する手助けをさせて下さい」
それが彼らを言霊で苦しめてしまったボクの、せめてもの罪滅ぼしだ。
ボクの問い掛けに、"シュ"は『ココカラ出タイ』とだけ呟く。
彼らはそれしか言わない。けれど、それは立派な意思表示だった。
「いいかい? キミ達がここから出られるように、今からキミ達に名前を付けるよ。キミ達を示す"シュ"という言霊。ボクはそれに複数の意味と漢字を当てたけど、今度はそれらの意味に相応しい名前をあげるからね」
守、朱、珠。
ガクで包み"守"られた"朱"の"珠"。
"それ"は、お盆に霊を導く灯になるとされ、故に"鬼灯"と書かれる。
「鬼は死者の霊って意味もあるけれど、心の闇に取り憑かれた者のことを示すのだと、おじいちゃんが教えてくれた。こじつけかもしれないけれど、鬼と呪は通じる所があると思う。だから、この名前がキミ達を照らし、正しい道へと導いてくれれば、と願っているよ」
"シュ"にこれといって反応は見られないけれど、あの、『ココカラ出タイ』という呟きはなくなっていた。
ボクの言葉に耳を傾けてくれているのならよいのだけれど。
「〈ホオズキ〉、それがキミ達の名だ」
宣言と同時に、車両内にいた黒いものが一斉に姿を消す。
代わりに、彼らがいた場所にはガクに包まれたままのホオズキがひとつ転がっていた。
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