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 ホームの縁に近付くと、横穴から吹き抜ける微風が肌を撫でる。  たとえ埃っぽくても、ボクはこの風が嫌いじゃなかった。  だって、この風は親切にも、ボクに色んなことを教えてくれるから。  車両の走行音が風に乗って聞こえたら、それは間もなく車両がやって来るという合図。  その時、風はきっと、ホームで車両の到着を待つ人々に、こう囁いてるんだ。  ――間もなく、貴方達をお望みの場所へと連れて行ってくれる車両が来るよ。    そろそろ、目的地へと向かう心の準備をしてはいかが?  ……ってね!  でも、その一方で、こうも思う。  ――魂みたいだ、と。  生温い風は、人の息吹やぬくもりを彷彿とさせ、そこからなんとなく魂を連想した。 (もし、この風が本当に魂だとするのならば、ずっとこのトンネルの中を彷徨い続けているのかな?)  地下鉄の気流にうっかり捕まってしまった魂は、地上へと抜ける事もままならず、永遠にトンネルの中を堂々巡りするのだろうか。  そう想像すると、その魂は外に出ることもなかなか叶わなさそうで、かなり可哀相に思う。 (暗い場所から出られないなんて、ボクならヤだな。キミは平気かい? それとも、地下鉄の行き着く先に、キミの目的地があったりするのかな?)  いもしない空想上の存在を相手に胸中で尋ねると、まるで呼応するかのようにゴオ……と風が嘶いた。  それに混じり、微かに車両の走行音が聞こえる。間もなく、車両はホームに到着する筈だ。 「るか、危ないから線の内側までお下がり」 「もう! わかってるったら。桜祈のお節介!」  車両の気配を察知した人々が、徐に乗車口の前に列を作る。  ボクらもそれに倣って、手近な列に並んだ。
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