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地下鉄が訪れる方向に目を遣り、トンネル内を巡る風のことをぼんやりと考える。
そうする内に、どこかしら霞がかった頭の中に、なにやら漠然としたイメージが浮かんできた。
(なんだろ、これ? ボクがカタチにして、表に出してあげなきゃ、解けて消えちゃう)
そんなこと思っていると、ボクの口がひとりでに開いて、言葉を発する為に、ほんの一息を吸い込んだ。
「……〈巡る〉」
あまり余計なことは考えない。意識は、飽くまでも先程浮かんだイメージにのみ向ける。そのイメージを適確に表す為に、思いついた言葉のままに紡いだ。
ひとつ言葉を発すれば、それが次に続く言葉の呼び水となる。後は堰を切ったようにスラスラと、頭の中で言葉が生まれてはボクの口を通り抜けて世界へと解き放たれていくのだ。
「〈現在地から次の地へ。
次の地からまた次の次の地へ。
巡り廻る、ボクらは常に。
此レは輪廻。
そして、此ノ場に縛られ彷徨う"シュ"もまた――〉」
「るか!」
「!?」
桜祈に耳元で名を叫ばれて、我に返った。
頭がぼんやりとする。夢から醒めたような気分だ。
ボクの肩を掴む手の強さに眉を顰め、その手の主を見上げれば、中性的で整った顔立ちが強張っていた。
戦慄き、焦燥、警戒。只事ではない桜祈の様子に、ボクは瞬きを数度してから尋ねる。
「ボク、また言霊を発しちゃった?」
「『発しちゃった?』ではない。"輪廻"と口走ったぞ、君は!」
そう告げる桜祈の目には、緊張の色がはっきりと浮かんでいた。
(あー、またやっちゃったか)
ボクの厄介な癖が、うっかり発動していたらしい。
ボクには変な癖がある。
それは自覚のない独り言だ。
……いや、独り言とはちょっと違うのかも?
何が発端になるのかはわからないのだけれど、頭の中でふと、自分でも理解不能なイメージが浮かぶところまでは、把握できるんだ。
ただ、その浮かび上がったイメージを口にする時は、無自覚というか無意識というか、意識はあるのにほぼほぼ夢を見ているっぽくて、そのわりに思考だけがひどく冴え渡るような、とにかく奇妙な感覚に陥っている。
で、トランス中は結構な長さの台詞を唱えているらしい(ボクにはそんな長台詞を吐いてる記憶はないんだけどね)。
『御せないからこそ厄介なのだ』とは、祖父の言。
厄介と言われる理由は、この独り言――【言霊】と呼ばれるのだそうだけど――は、不思議な力を持っていて、それ故に大なり小なりトラブルを招き易いのだそうだ。
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