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「何か起こるのかな?」
ホームに着いた車両に乗り込む人々に流されながら、喜色満面でボクは桜祈に尋ねる。
ボクが無自覚に発する言霊と、その言霊がトラブルを招きかねないのは厄介だ。
でも、ひょっとしたら、トラブルじゃなくて、なにか面白いことや奇跡が起きるかもしれないと思うと、不安よりも好奇心が勝ってしまう。
けれど、やや神経質な桜祈の反応は、威嚇音が聞こえてきそうなほどに尖ったものだった。
「嬉々としない! 言霊がどう発現するかも知れぬのに、どうして君はそう呑気なのか。ああ、るか、こちらに」
彼は人混みの中、ボクを誘導し、ドアと座席の間に潜り込んだ。
この場所を選んだのは、有事の際、即座に脱出できる為だろう。
(心配性だな、桜祈は)
もっとも、彼がこんなに警戒するのには訳がある。
それは、ボクの抱える厄介な癖に関わっていた。
ボクが無自覚で発してしまう言霊。
言霊は不思議な力の籠もった言葉の総称で、ボクのそれには簡単に言うと、口にした事柄を実現する力があるらしい。
桜祈がこうしてピリピリしているのは、今回放たれた言霊が穏やかならぬ内容だったからだ。
「"輪廻"と"シュ"かー。言霊だって万能じゃないんだろうから、大した事は起きないよ。取り敢えず、おじいちゃんに"シュ"に心当たりがないか訊いてみるよ」
バッグからスマートフォンを取り出して、祖父にメッセージを送る。
その間、脇で桜祈はボクの危機感のなさをしきりに嘆いていたけれど、ボクは聞こえない振りをした。
(そんな事言ってもなー)
だってさ、ボクの発した言霊の内容が、本当に実現するとしても、いくらなんでも輪廻なんて死後の世界に関与しそうなものが、この現世に現れるわけがないんだ。
それに、余程のことがない限り、ボクの警戒心はあまり働かないよ。だってさ――
「心配しようがないんだよな。だって、頼れる相棒が傍にいてくれるからね」
「何か言ったか?」
「んーん、独り言」
のんびりと返事をするボクに、相棒はこれみよがしにため息を吐いた。
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