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◆◇◆◇
呪は緩慢に、だが着実に、こちらとの距離を縮めている。
「囲まれた以上、下手には動けん。いいかい、ぼくの後ろでじっとしていておくれよ」
「でも、そんな事したら、桜祈が呪に取り憑かれてしまうよ。そんなの駄目だ!」
大事な相棒が、自分を庇って危険な目に遭うのを黙って見過ごせない。
ましてや、この事態に陥ったのが自分のせいとあらば、尚更、彼を犠牲にするなどできない。
盾となっている彼をどけようとするが、逆にこちらが動けないようにドアに押し付けられてしまう。
「安心して。ぼくには呪への耐性がある。ちっとやそっと触れるくらい問題ない」
「でも!」
抗議しても、彼は澄ました顔で前を見据え、毅然としている。――頑として、退かないつもりだ。
(呪をなんとかしなきゃ、二人とも危ない目に遭う。言霊がきっかけで出てきたのなら、ヒントはそこにある筈だ)
スマートフォンを取り、先程送った祖父へのメッセージを確認する。
彼に知らせていた言霊の内容が、そのままきれいに残っていた。
――現在地から次の地へ。
次の地からまた次の次の地へ。
巡り廻る、ボクらは常に。
此レは輪廻。
そして、此ノ場に縛られ彷徨う"シュ"もまた――
(このままの文だと、何が何やらだ)
他に何かしらヒントはないか。必死になって思考を巡らせていたら、ふとあることに思い至る。
(そう言えば、言霊を発する直前、構内を吹く風と地下鉄の事を想像していたっけ)
もし、言霊がその想像から派生したものなら、前半の文は輪廻だけでなく地下鉄のことも表している可能性がありそうだ。寧ろ、輪廻を地下鉄になぞらえていると捉えた方が、よりしっくりくるのではないか。
(輪廻、地下鉄……他に気になるのは、この黒い呪の元の正体。それと、この文章が宙ぶらりんなことだな)
黒い呪の正体は、地下鉄というキーワードと言霊からなんとなく想像はつく。
あと気掛かりなのは言霊を構成する文章が未完結となっていることだ。
(直感だけど、途絶えた文章は"シュ"に関わるもののような気がする)
文章の構成上、欠落しているのは呪の動向を示すものと考えるのが妥当だろう。
ここで、ある仮説が浮かんだ。
「ひょっとして、自分達が影響を受けてしまった言霊が未完結のまま途絶えたせいで、呪は自分達がなにをどうするべきなのかわからないんじゃない? それで当てを求めて、言霊を発したボクに迫ってたりして」
「そんな馬鹿なことが……」
こちらの意見を聞いた直後は、取り合う気のない様子の桜祈だったが、ふと、口を噤んで考える。
「一理あるかもしれぬな。とにかく、安全確保が先決だ。次の駅で降りよう」
「それは駄目」
「何故だ!?」
降車を否定したボクに、桜祈が憤り混じりの声を上げた。
「ボクには、"彼ら"を救ける責任があるからだ」
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