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何も答えず睨み続ける花に、紳一郎は初めて表情を動かした。
「色は違うが……昔の沙奈江によく似た目をしているな。」
その目が嫌いだったよ。そう言って口元をゆがめたような笑みに花は背中が泡立つのを感じた。紳一郎の足が動いたと同時に、花は思わず横に転がった。花をけり損ねた足を自然に元の位置に戻す紳一郎のしぐさは、なめらかで無駄がなかった。
「裏切り者の役立たずの娘か。やはり逃げるのだけはうまいな。そこも母親譲りか。」
あざけるようにそう言うと、ふっと花から興味を失ったように背中を向た。それから後ろに控えていた部下たちと共に、紳一郎のために開かれた観音開きの門の中へ消えていった。花はしばらくしりもちをついたままその背中を見つめていた。
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