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しばらく沙奈江の青白い顔を見ていた花だったが、ふと、また太一に向き直る。
「太一、あんたまだ仕事している時間じゃないの?」
普段太一は夜遅くまで、豚小屋で家畜の世話をしていた。それが、今日は珍しく早く帰っていたので、花は気になったのだ。
「紳一郎君が帰ってきたから、みんな大座敷に集められたんだよ。でも僕が行ったら部屋の前で追い返されちゃってね。」
しょげたように情けない顔をして太一はうなだれる。厄介者が家族の集まる席に招かれるわけがないのだが、太一はまだ学習していないようだった。
「僕悲しかったから、部屋に帰ってきちゃったんだ。ほんとはダメなんだけどね。そしたら沙奈江ちゃんがどうしたのって聞いてくれたから、紳一郎君が帰ってきたから、僕も会いたかったのに会えなかったって言ったの。それで、お菓子を沙奈江ちゃんと食べようと思って棚の中を見てたら、沙奈江ちゃんが急に変になって……。」
花は溜息をついた。
「太一、もういいから、あんた仕事に戻った方がいいよ。おじさんとかおばさんたちに見つかると、また怒られるんじゃない?」
花の指摘に、途端に太一はおびえた顔になってそそくさと立ち上がった。
「花ちゃん、このことはみんなには内緒に……。」
「わかったから早く行って!」
花は皆まで言わせず、太一を部屋から追い払った。どたどたと慌てて階段を下りる太一の足音が次第に遠ざかっていく。部屋には花と沙奈江の二人きりになり、途端に静かになった。花は沙奈江を振り返る。呼吸はだいぶ落ち着いたが、目をつぶったままの顔色はまだ悪い。花はもう一度溜息をついた。
「お母さん、大丈夫?」
「もう大丈夫だから。心配かけちゃってごめんね。もう平気だから。」
弱弱しい沙奈江の返答には説得力がなかった。花は一瞬間をおいて、おずおずと沙奈江に声をかけた。
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