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「お母さん、やっぱりこの家を出ようよ。ここは…お母さんにとって良くないと思う。」
花の言葉に沙奈江は目を開け、こわばった笑顔を向けた。
「大丈夫よ。お母さん平気だから…。」
「平気じゃないよ!!」
思わず声を荒げた花の目に薄く涙が浮かぶ。
「ここに来る前はこんなこと起きなかったでしょ!!前は生活は大変だったけど、お母さんももっと元気だったし、何とか二人でやってきてたじゃない!!」
この家を出てまた、二人で暮らそうよ。沙奈江は上半身をゆっくりと起こして沙奈江は花を見つめた。その目は疲れ果て、何かにおびえているようにも見えた。
「花、私は大丈夫だから。ここにいるのが二人にとっていいことなのよ。」
「何がいいことなの?ここにきていいことあった?」
花はこの屋敷に戻ってから沙奈江が日に日に疲れ果て、やつれていく様子をずっと見ていた。花の中で何か張りつめていたものが崩れていくようだった。
「なんでここに戻ったの!お母さん。自分が逃げたところに何で戻ったの!!」
どうしてこんなところに。犯罪者の家に。自分がみじめになる場所に。
「花!!」
沙奈江の思わぬ強い声に、花はびくっと肩を震わせた。
「私には戻るしかなかったの。私だけでは花を大学まで行かせたり、普通の生活をさせることはできなかったの」
「普通の生活って何?学校だったら働きながらだって行けるし、大学なんて行く必要ないじゃない!ここにいたら犯罪者の仲間入りだよ!!」
「花、聞いて。私は16歳であなたを身ごもって、ほとんど学校も行けなかった。生きるだけで必死だった。蛭子家がまともな家じゃないことはよく分かってる。でもあなたには普通の人生を送ってほしいの。高校と大学を卒業して、ちゃんと働いて普通に生きてほしいの。ほんの数年、ここでの生活を我慢すればそれが手に入るのよ。当主の大爺様には、花に家業を手伝わせないようにお願いしてあるから……。」
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