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蛭子花(ひるこ はな)は家族が嫌いだ。理由は簡単。蛭子家は全員『犯罪者』だからだ。
「花、あんたも突っ立てないで手伝いなさいよ。」
目の前を黒服のいかつい男二人が次々と袋に入った死体を運んでいく。花はその様子を黙って見つめていた。そんな花にけだるげに声をかけたのは花の母、沙奈江のいとこの妃(ひな)だ。母のいとこといっても年齢は花と同じ十七歳。細身の体にお腹を出した黒ずくめのゴシックファッション。ストレートの長い黒髪には紫のメッシュ。とがった顎と濃い化粧をした青白い顔は、なんとなく好色そうな雰囲気がある。花はもちろんこの女が嫌いだった。誰が手伝うか、こんなこと。花は内心毒つきながら、表面上は平静を保って無言だった。そんな花の様子が気に食わなかったのか、妃は横にあるトラックをいきなり編み上げブーツで蹴とばした。その振動でトラックの荷台に積まれていた死体が二、三体転がり落ちる。
「あんたさあ、それが『裏切り者』をわざわざ養ってやってる蛭子の人間に対する態度なの?」
花はちらっと妃に目をやったがすぐに目をそらした。言ってやりたいことはたくさんあったが、これ以上妃 を苛立たせたくなかった。とにかく余計なことを言わず波風を立てない。これがここでの花のモットーだ。
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