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「お前、なんかいつもよりも不細工だな。」
「悪かったね、不細工で。」
唐突に伊織は花の顔を見てそう言った。花は涙の後を隠すように、慌てて伊織から顔を背けた。寸の間そんな花を見つめた伊織は、何を思ったか急に花の手を取って人込みの中を歩きだした。
「お前今暇だろ。ちょっと俺に付き合え。」
「え、ちょっと。何なの。」
急なことで驚いた花が抵抗する間もなく、伊織はそのまま歩き続ける。何度か手を振りほどこうと試みる花だったが、男の伊織の力に勝てるはずもない。しばらくしてあきらめた花は伊織に手を引かれるままについていく。しばらく二人で人通りの多い大通りを歩いていると、突然左手から声が上がった。
「あれ、伊織じゃん!こんなところで何してるの?」
「伊織!カラオケ誘ったのに何でこなかったの!」
伊織が立ち止まり、手を引かれていた花は軽く伊織にぶつかる。声をかけたのは、制服からして花や伊織と同じ高校の女子生徒たちだった。どうやら伊織の友人らしい。伊織も友人たちの姿を認め、その顔が花に対して向けないような明るい笑顔になる。花はぼんやり、こんな顔もできるのかと、自分よりも少し背の高い伊織の横顔を見つめた。
「悪い!今日は家の用事でさ、行けなかったんだ。また次な」
「えー、そう言ってだいたい来ないじゃん。付き合い悪いー。」
「じゃあ、今からごはん行くけど来る?」
「いや、いま取り込み中だから。」
そういって伊織の横に隠れていた花を友人たちに見せるように軽く前に出した。
「ちょっと!」
花の小声の抗議の声を無視して、伊織はじゃあっと友人たちに言うとさっさと歩き始めた。手を引かれる花はちらっと後ろを振り返り、伊織の友人たちの姿を盗み見た。その顔には驚きの表情を浮かべている。花は視線をそらし伊織の横に並ぶために少し早歩きになる。
「毎回言ってるけど、誤解される言い方やめてくれない?」
「誤解って、どんな誤解?」
伊織は面白がるような笑みを浮かべ、ちらっと花を横目に見る。花はその問いには答えず、明後日の方向をむいてつぶやいた。
「鬼ヶ崎の人間と、蛭子の人間が一緒にいたら変だと思うけど。」
伊織はなんだ、そういうことかとでもいうような顔をして、次にいつもの皮肉気な顔になった。
「犯罪の証拠を押さえて、お前を警察へ連行しているとこだと思われたかもな。」
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