犯罪一家の嫌われ者

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反応のない花に妃は舌打ちをして、代わりにせっせと死体を運ぶ男の一人に早く仕事を終わらすように文句を言って、細長い脚で貧乏ゆすりを始めた。妃は苛立っているようだった。『豚の餌係』なんて下っ端の仕事を任されたのが、この気位の高い女には気に食わなかったのかもしれない。妃自身は男二人に砕機のある納屋まで死体を運ぶよう指示をするだけで、あとはタバコを吸って待っているだけ。花は妃の母、沙奈江の叔母にあたる静代(しずよ)に「飯が食いたきゃ働け」と脅され、しぶしぶついてきただけだ。はなから手伝うつもりはさらさらない。花が手伝わずとも、部下の男が手慣れた様子でさっさと死体を片付けていく。その様子を見る限り、静代の目的はただただ花に嫌がらせをしたかっただけなのだろう。おそらく今日の夕食はハンバーグだ。花には静代の魂胆が手に取るように分かった。生まれた時から蛭子家で育った妃はともかく、最近この家に戻ることになった花にはかなりきつい嫌がらせだった。豚のにおいと、機械音のする大きな納屋。中で死体がどうなるのか、勝手に想像しだした思考を止めるように花は夕日を振り返った。今日も一日が終わる。逆光で黒々とした影 になった山の奥 に、夕日が吸い込まれていくまで花はじっとそれを見つめていた。
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