犯罪一家の嫌われ者

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「お母さん、ごはん持ってきたよ。」 花は夕食を乗せたお膳を持ったまま、器用に足でふすまを開けて7畳ほどの天井の低い部屋に入った。ここは本来使用人にあてがわれるはずの部屋だが、広い屋敷のはじにある中二階のこの部屋に、花と沙奈江は押し込まれている。家族全員がそろう食事の席にも花達は出入りを禁じられていた。 「ありがとう、花。」 病に臥せって薄いせんべい布団に横になっているはずの沙奈江が、繕い物をしていた手を止め花を仰ぎ見た。本来美しいはずの沙奈江の顔は疲れと心労で何歳も老けて見えた。一つに束ねた黒髪にもところどころ白い線が見える。いつにもまして疲れた顔の沙奈江を見て、花は溜息をつきながら布団のそばにある小さなテーブルに夕食を置いた。 「また、静代おばさん?」 「どうせ仮病でしょって言って、これを持ってきたの。」 沙奈江は苦笑いしながら、持っていた縫いかけの穴の開いている靴下を、花に軽く掲げて見せた。どう考えても、繕ったところでもう二度と使えそうにない代物だ。静代はよく病気がちな沙奈江のもとに、嫌がらせで徒労で終わるような仕事を押し付けていく。 「花の方はどうだった?今日は何もされなかった? 」 「大丈夫。何もないよ。」 死体運びの手伝いをさせられたことは沙奈江には言わなかった。嫌がらせなら毎日されてる。いちいち数えていたらきりがない。花は心配そうに顔を覗き込む沙奈江から目をそらした。今日の夕飯は案の定ハンバーグだ。思わずまた死体と粉砕機の回る機械音を思い出し、花は軽く吐き気を感じた。沙奈江を見ると、何も知らずゆっくりとハンバーグに箸を入れている。と、ふすまの外、中二階へ上がる木の階段をきしませてゆっくり上がってくる音がした。途端に沙奈江の顔がこわばる。花はその様子に気が付かず、ふすまの方に顔を向けた。ふすまを開けて大きな体躯を縮ませて入ってきたのは、沙奈江のいとこの太一(たいち)だった。途端に部屋中に汗の酸っぱい匂いが広がって、花は思わず顔をしかめた。沙奈江は太一の顔が目に入った瞬間に、体のこわばりを解き小さく息を吐いた。
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