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「シャワーぐらい浴びてから部屋に戻ってよね。」
きつい花の声に、太一は低い天井にぶつからないように小さく丸めた体をさらに縮ませて、すまなそうな顔をした。
「ごめんよ花ちゃん。お風呂は大爺様たちから入ることになってて、僕は入れなくて…。」
「そんなこと知ってるよ!」
花はイラつきながら部屋を真ん中で仕切っている布のカーテンを一気に引いて、太一の姿を視界から消した。汗のにおいも多少ましになる。
「花、太一君にそんな風に言っちゃダメでしょ!」
沙奈江の叱咤に花はフンと鼻を鳴らした。
今年31才になる太一のどこか間延びしたようなしゃべり方と、花のような子供にもおびえたように頭を下げる態度は花の癇に障った。
「だいたい何で私たちが同じ部屋に寝起きしなきゃいけないの。」
沙奈江と花はカーテン一枚で部屋を仕切って、太一とその息子の4人でこの部屋を使っていた。太一もまたこの愚鈍な性格のせいで、家族から役立たずと蔑まれている者の一人だった。
「でも、最初にここに住んでたのは太一君たちだから。」
沙奈江はすまなそうにつぶやく。元々この部屋に住んでいたのは太一たちだったが、そこへ沙奈江と花が出戻り、部屋の半分を占領した。太一たちに文句を言われる筋合いはない。花も内心、自身の言っていることがただの八つ当たりだということを理解していた。ただどうしても、太一を見るときつい言葉をかけずにはいられないのだった。
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