鬼ヶ崎家の監視人

3/5
前へ
/187ページ
次へ
花はかわいいといわれるような顔だちをしている。色白の肌にセミロングの黒髪。全体的に小造りの顔には、母親似の大きな目が少しアンバランスに存在を主張している。くわえてそこに日本人には珍しい、薄いハシバミ色の瞳が加わることで、さらに見る人間に不思議な印象を与えていた。だが花は、好奇の目にさらされるこの瞳が好きではなかった。 「瞳のこと言われるの好きじゃないの。じろじろ見るのやめてよね。」 花はぶっきらぼうにそれだけ言うと、千秋を置いて走り出した。 「あ、花さん!」 千秋は驚いて声を上げたが、花の予想以上の足の速さに追うことをあきらめた。 花はしばらく走り、校門近くで生徒がちらほらと見えるようになると歩みを緩めた。かなり長い距離を走ったにもかかわらず、花の息が上がっている様子はない。やっと千秋から逃れられほっとしたのもつかの間、玄関前にもう一人の苦手な人物を見つけて、花の口からは思わずため息がこぼれた。 「おはよう、蛭子花。昨日の死体運びは楽しかったか?」 無視をして横を通り過ぎようとした花に、その人物は無造作にぎょっとするような言葉をかける。玄関に少人数いた生徒たちにも聞こえたようで、数人が驚いたように二人を見た。事実を言われても花は動じなかったが、周りの反応には眉をしかめて、急いで声をかけた人物に向き直った。花が少し顔を上げると、その人物、鬼ヶ崎 伊織(おにがさき いおり)は涼しげな顔をして花を見下ろしていた。 「そういうこと言うのやめてくれる?誤解されるから。」 「誤解じゃないだろ?猫を被るのはやめろよ。」 花の反論に伊織は皮肉気に笑う。細身だが色黒で、男らしくしっかりとした体つきの伊織は、切れ長の瞳の精悍な顔つきと、なぜか愛嬌を感じさせる口元、陽気といわれる性格も相まって、男子生徒、女子生徒ともに人気が高かった。だが花にとって伊織は、どこか得体が知れず、目障りな存在だった。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加