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彼女は眉根を寄せ、さも気持ち悪そうにシンクを見ている。
そこには何もいない。光るシンクがあるだけだ。
彼女は、その後も毎日のようにハエが居ると騒いだ。
いろんなハエ取りの用品を設置したり、殺虫剤を撒いたり
日に日にハエが増えるとヒステリックに騒いだ。
ぼくの目にはハエは一匹も映らない。
「ねぇ、病院へ行こう。」
彼女にそう切り出すと彼女は烈火のごとく怒った。
「私の頭がおかしくなったとでも言うの?ほんとに居るんだから!
酷いわ。こんなにハエがいるのに。なぜ見えないの?」
彼女は子供のようにわんわん泣いた。
これは病院へ連れて行くのは至難の業だな。でも、このままじゃ。
その夜、彼女の悲鳴で目が覚めた。
「どうしたっ?」
ぼくは彼女のベッドに駆け寄った。
「体中にハエが!!!!いや、いや、いやあああああああぁぁぁっ!」
彼女は体中を掻き毟った。彼女の体の至る所から血が滲んだ。
「やめろ!ハエなんかいないよ!落ち着け!」
なおも彼女は暴れる。
「いるわよ!体中、私を這いずりまわってるわよ!」
「どこに!居ないってば!君は病気なんだ。な?明日病院へいこ?な?」
ぼくはそう説得すると彼女がピタっと静かになった。
正気を取り戻してくれたか、とホっとした。
「明日会社休んで君に付き添うから。」
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