6人が本棚に入れています
本棚に追加
すると太郎の体がグラっと後ろに傾き、螺旋の非常階段から真っ逆さまに落ちてしまったのだ。
英明は驚いて手を差し伸べたが間に合わなかった。
その逆の手には太郎のゲームが握られていた。
たぶん太郎からゲームを取り上げたのだろう。英明は慌てて、下に駆け下りようとして
ぼくとぶつかった。英明は青ざめた顔でぼくにこう言ったのだ。
「いいか、太郎は自分で落ちたんだ。俺のせいじゃない。余計なことはしゃべるな。」
英明は近所の人に助けを求めた。
ほどなくして救急車が到着したが、太郎がもう生きていないのは
太郎の様子を見ればぼくら子供にもわかった。
太郎は死んだ。
ぼくは悲しかった。小さい頃から兄弟のように育ってきた。
よくぼくは近所の人から「太郎ちゃんかと思ったわ」
と言われるほどよく似た二人だったのだ。
ぼくは許せない。よそ者の英明なんかにぼくらの友情を壊されて。
ぼくの大事な太郎を壊された。
でもぼくは弱い。英明に何もできないし、英明が太郎を殺したことすら
告白できない弱虫なのだ。
どうせぼくが英明が殺したことをばらしても、英明は小学生だから
何の罪にも問われないのだろう。
だからぼくはせめて、英明に少しだけ思い知らせたかった。
ぼくは太郎の家にお泊りした時に借りた太郎の服を着て、
鏡の前で太郎の髪型に似せて髪をとかした。
最初のコメントを投稿しよう!