影武者

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すると太郎の体がグラっと後ろに傾き、螺旋の非常階段から真っ逆さまに落ちてしまったのだ。 英明は驚いて手を差し伸べたが間に合わなかった。 その逆の手には太郎のゲームが握られていた。 たぶん太郎からゲームを取り上げたのだろう。英明は慌てて、下に駆け下りようとして ぼくとぶつかった。英明は青ざめた顔でぼくにこう言ったのだ。 「いいか、太郎は自分で落ちたんだ。俺のせいじゃない。余計なことはしゃべるな。」 英明は近所の人に助けを求めた。 ほどなくして救急車が到着したが、太郎がもう生きていないのは 太郎の様子を見ればぼくら子供にもわかった。 太郎は死んだ。 ぼくは悲しかった。小さい頃から兄弟のように育ってきた。 よくぼくは近所の人から「太郎ちゃんかと思ったわ」 と言われるほどよく似た二人だったのだ。 ぼくは許せない。よそ者の英明なんかにぼくらの友情を壊されて。 ぼくの大事な太郎を壊された。 でもぼくは弱い。英明に何もできないし、英明が太郎を殺したことすら 告白できない弱虫なのだ。 どうせぼくが英明が殺したことをばらしても、英明は小学生だから 何の罪にも問われないのだろう。 だからぼくはせめて、英明に少しだけ思い知らせたかった。 ぼくは太郎の家にお泊りした時に借りた太郎の服を着て、 鏡の前で太郎の髪型に似せて髪をとかした。     
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