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藤崎の車に智恵理と二人で乗り、夜の街を走り抜けて自宅へ帰る。
車窓を流れる街灯をぼんやりと眺めながら、泥のように座席に凭れかかる俺をよそに、智恵理と藤崎はハイテンションだ。
何をそんなに興奮しているのか。小学生が社会科見学した後のバスの中でもあるまいし、よくもそんなにはしゃげたものだ。
「それでね、こうやったの。『そのワインをかけたらいいわ』」
智恵理は狭い車内で両手を広げる。
「カッコイイ!
流石、女帝と言われるだけのことはありますね」
「本当!もう見とれちゃった」
智恵理からざっと事の顛末を聞いた時は、あまりの衝撃に頭に血がのぼるどころの騒ぎではなかった。
「出席者の名簿の中から智恵理にワインをかけたとかいう二人の女を突き止めてやる!」
思わずそう叫んだら、智恵理に「馬鹿じゃないの」と一喝された。
「こういうのは女同士の問題なの。男がしゃしゃり出るなんてダサい」と。「ハラハラして、まるでドラマの中にいるみたいで楽しかった」と笑われて、俺は引くしかなかった。
智恵理が言ったことが本心かどうかは定かではないけれど、今日のところは納得するしかない。これから俺にできることは、今後はこんなことが無いように細心の注意を払うことだけだ。
「一条さんも超イケメン!
背も高くって、顔もすっごい整ってるし。キリッとしてて素敵だったなぁ。
あの二人ってお似合いだよね」
「……そうだな」
「何?またふて腐れてるの?」
「別に、そういうわけじゃない」
そりゃあ、ふて腐れもするだろう。
俺の前で他の男をそんなふうに褒めちぎらなくたっていいのに。
智恵理は男心を全くわかっていない。
「でも、やっぱり聡が一番だな」
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