意気地なし

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どんどん卑屈になっていくのが嫌だ。 私にだって聡にしてあげられることがあるはずだ。 そりゃあ、高いものはあげられないけど、今までのデートで不本意ながら食費が浮いた。 その分と生活費を削れば何か買えるかもしれない。 何ならバイトの時間を長くしたっていい。 「ねぇ、聡。何か欲しいものはない?」 「どうしたんだよ、急に」 「何かお返ししたいなって。 ご飯の会計はいつも聡だし、移動にだってガソリン代がかかってるでしょ? いつも聡の方ばっかりだもの。私も何か……」 「智恵理、ありがとう。凄く嬉しいよ。 でも、何もしなくて良いって言っただろ?」 「……私にお金がないから?大丈夫よ、少しくらいなら」 「なぁ、智恵理。そんなことは気にしないでくれないか」 「気になるよ。何回も言ってるじゃない」 聡は大きくため息をついた。 「もういい、聞かない。勝手に買うから。 その代わり、気に入らないとか言わないでよ!?」 「……」 「無言、禁止!!」 「機嫌を悪くしないでくれ」 「だって、聡が欲しい物を言ってくれないからじゃない」 「俺のためにお金を使ってほしくないんだよ。 少しでも智恵理の生活を楽にしたくてやってるのに、意味がなくなるじゃないか」 「そんなこと頼んでない! してもらってばかりだったら、どんどん惨めになるだけよ」 「俺は別に大したことはしてないよ」 「ムカつく、なにそれ。私に対する嫌味?」 あぁ、こんなこと言うつもりないのに。 ただ、何かお返ししたいって思っただけで、どうして喧嘩になっちゃうんだろう。 これ以上最悪な雰囲気になる前に車を降りたい。 ここ、どこかわかんないけど。
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