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右の肩からなくなっていた。たぶん、ここが稼動するようになっているので、
悪戯でここから引き抜いたのだろう。
「線路は危ないからね。入っちゃだめだよ。残念だけど、お人形の腕は諦めた方がいい。
パパかママに言って新しいものを買ってもらえばいい。」
男の子は涙を浮かべた。
「ダメなの。この子じゃないと、ダメなの。」
自分の物でもないのに、妹思いなんだな。僕はそう思った。
「おうちどこ?お兄ちゃんが送ってあげるから。」
この子は思いつめたら、きっとまた線路に入って探すだろう。それだけは避けなくては。
僕は、その思いでその子を家まで送り届けることにした。
男の子は道中、ずっと黙っていた。男の子が先導する方へ僕は歩いていった。
「ここだよ。」
ずっと俯いて歩いていた男の子が、顔を上げた。
ここだよ、って・・・。これって、本当に人が住んでいるのか?
その家は荒れ放題だった。そこからは、まるで生活の気配が感じられない。
「送ってくれて、ありがとう、お兄ちゃん。」
その男の子は廃墟のような家に入って行った。
僕は、怪訝に思いながらも、なんとか男の子が自宅に帰ってくれたことでほっとした。
そして、次の日、僕はまた会社帰りの駅からの道で、また線路にいる男の子を目撃した。
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