三、

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三、

※ ※ ※ それからもう何年経っただろうか。 あの日、私の心を引き留めてくれた母はもういない。 その代わり私の隣には、大事な人がいてくれる。 少し不思議な目の色をした彼は、突然現れて、きみの為に来たんだ、と歯の浮くような台詞を告げて以来、私の傍を離れない。 優しいけれど強引な彼に絆されて、身も心も預けるようになったのは、いつだったか。 「本当に大げさね」 ほんの少し離れただけでも、何度も私の名前を呼ぶ彼に、愛しさが零れる。 「大げさなもんか。きみを確実にとらえる為に、僕は此処に来たんだ」 優しく抱きしめられて、安心してしまう。 左手の薬指にぴったりな指輪をくれたのは、昨日の夜のことだ。 彼にも、私にも、挨拶をして、許しを請う相手はいない。 せめてお墓参りに行かせてほしい、と言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。 「じゃあ、明日行こう」 やっときみを連れて行ける、と満足そうに吐息を吐く彼から、あの日私が背を向けた海の香りがした、気がした。 【Fin.】
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