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「私が姫で良いと、お前は言うのか?男の私に、一国の主である、この私が!」  早口に、一気に声を上げたレイレスを前に、何の事かを悟ったのか、シューフは首が零れ落ちそうなほど振る。 「いえ!そのようなこと、私は考えたこともありませんでした!」 「まあ、元はといえば俺が言ったことだからな…」  頭を項垂れるレイレスを横目に見、シューフは辺りを見回した。  広野には、道が一本どこまでも続き、そして、鬱蒼とした森の中に続いていた。  乾燥した地には、蹄の心地よい音が響く。  一呼吸おいたシューフは、レイレスに向き直り、声を上げた。 「ご覧ください、陛下。もうじき『神の裁き』と呼ばれる絶景が現れますよ」  指差した方角には、何も無かった。  森の先、小高い丘。  その先が、「本当に何も無かった」。 「『神の裁き』?本当にあったのか?」  その名は、ファーロに教えられていた。だが、実際に目の当たりにするのは初めてである。  大陸を分断こそしないが、底を見ることが不可能と言われている、広大な谷である。 「はい。隣国のサルバースへはここを通るより、他の道はありません。しかし、目前の森を迂回する順路も考えてあります。ご安心を」 「姉上達に知らせてくる。…しばらく戻らないかもしれないが、後は頼む」 「はい」  シューフは頷き、先方を見た。  レイレスは深い溜息をつき、くるりと馬の向きを変え、姉姫達が乗る馬車へと馬を進めた。  一団の最後尾を進む姉姫の馬車は、ゆっくりとした速度で進み、レイレスが馬を近づけるほどに竪琴の音が幌の中から零れてきた。  レイレスは流れ聞こえる音楽に、自分の身に起こるであろう事を想像しながら、馬を早足にさせた。
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