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 ふと、レイレスは太陽を見た。  不意に、辺りを照らす太陽の光が一瞬、翳ったのだ。  眩しい指と指の間に、何か、黒い影が旋回している。  烏。  にしては大きい。  側にいた衛兵に、声をかけようとしたその瞬間。  血飛沫を上げ、衛兵の首が黒い何かによってもぎ取られた。 「…なっ…」  レイレスは、一瞬、目を疑った。  だが、噴水のように血を噴出しながら落馬していく身体を見ながら、察した。 「敵襲!!」  何処からか、声が上がった。 「何が起こった!?」  レイレスは先頭を行くはずのシューフを追いかけた。ちらりと、背後を進む馬車を見る。  馬車の車輪。  大人一人の高さはある車輪と同じ大きさの黒い何かが並走している。 「…!!…姉上…!!」  先頭には戻れない。  旅団の、列が乱れていく。 「陛下!!」  シューフの声が聞こえた。 「シューフ!何が起こった!?」  剣を抜いたシューフが馬を駆けていた。  その頭上に、人と同等ほどの大きな烏が、羽ばたいていた。 「なん…だと…」  エニーロとは、比べ物にならないほど巨大なそれは、赤い瞳をレイレスへ向けた。 「化け物です…!!あれは…逃げて下さい!!陛下!!」  シューフが馬を操りながら剣を振るう。  その刃はかすりもしなかった。 「逃げるなど…できるか!!」  レイレスは剣を抜き、馬を駆け、すれ違い様シューフの頭上へと剣を突き上げた。   黒い羽が数枚散るも、逃した。  辺りを見回す。砂煙が舞い、視界は悪いが、状況が最悪な事もすぐにわかった。 「お前は隊列を組み直し戦闘態勢をとれ!私は姉上たちの馬車を守る…!」  馬の首を振り返し、鞭を入れた。  すでに砂埃と血が乱れ飛ぶ中をレイレスは駆けた。 「なりません陛下!わたくしが…!」  シューフの呼びかけに応じず、レイレスの影は消えた。 「陛下…!」
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