27/39
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「まずこの木の上に一匹。背後の茂みに一匹。他の二匹はお前には感知できない」 「馬鹿なことを。そんなフリなど、いつまでも通用するとでも?」 「あぁ」  エィウルスの唇が、レイレスの耳朶を噛む。反応したレイレスはビクリと身体を震わせた。 「っ…やめ…」 「もうじき、あいつが来る」  あいつ、とは誰かとレイレスが問おうとした瞬間だった。  頭上で、剣が混じり合う音が響いた。  ドサリ、と何かが落ちた。見れば、それは男の首だった。  続けざま、音もなく何者かがその上に降り立った。  ディーグだった。 「待たせたな。…邪魔な奴らはまあ、任せておけ」  じゃ、またな。そう言って、再び闇の中に消える。  辺りは、再び昏い静寂に飲まれた。  伸し掛かられたままのレイレスは、痺れを切らしてエィウルスの胸を押し退かそうと藻掻いた。 「おい、退け!」 「いや、まだ、話は終わっていない」 「話…だと…?そんなもの…」  無い。と言いかけてレイレスは息を飲んだ。  エィウルスが、短剣を引き抜いたのだ。 「な…に…」  問う前に、エィウルスが己の手首を斬った。  ポタポタと、レイレスの白い胸に赤い雫が落ちる。 「な…なに…を…!」  エィウルスは眉を顰めるわけでもなく、血の流れる己の手首に唇を当て、そのまま、レイレスの唇を塞いだ。 「!」  強引に舌がレイレスの咥内を蹂躙し、血を流し込む。  慣れの無い味に、レイレスは瞼に力を込めて閉じた。  二度、三度と、エィウルスは同じようにレイレスに血を流し込む。  堪え切れなくなり、レイレスは瞳を見開いた。  そこには、エィウルスの銀の瞳に映り込んだ、己の金の双眸が見えた。  吸血の証。 「やはり、吸血か…」  エィウルスは、その瞳を覗き込み、確かめた様に呟いた。  レイレスは、呆然とその瞳を見返した。  吸血の証とは。  もう、成長することの無い証。  この体を、身勝手に組み敷いたこの体躯と、なぜこんなにも違うのか。 「…っ…」  エィウルスの指が、レイレスの顎を捕らえる。 「お前を、女のように扱う俺が憎いか」 「…!」 「これから、お前を抱く。もし拒むならば…」  レイレスは、言葉の続きを、最悪の事態を予感した。  だが、その言葉は、低く、耳元に零された。 「拒むならば、俺を、殺してくれ」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!