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「レイレス?レイレース?」  金の巻き髪を、寝間着に惜しげもなく垂らした姿で己の名を呼ぶ姿をレイレスは見つけた。 「エメルティア姉上、私はここに」  己の羽織っていた上着を脱ぎ、レイレスは応えた。 「レイレス!見つけた!!」  ぱっと花開いたように笑顔を見せ、レイレスの二番目の姉、エメルティアはレイレスに駆け寄った。 「このような姿では風邪をひかれます。姉上」 「だって、また誰にも告げず『外』を覗いていたんでしょう?それにあまり寝てない」  レイレスはエメルティアの肩に羽織をかけると、エメルティアは頬をふっくらと膨らませた。 「姉上…、私は…」 「あーっ!ずるいですわ!エメルティア姉上!!」  レイレスの言いかけた言葉を遮って、二人の間に入り込んだのは、エメルティアと同じ顔、同じ声をしたもう一人の姉、アンノセリアである。 「アンノセリア、私が一番にレイレスを見つけたのよ」  同じ顔二つが向かい合い、頬を膨らませる。 「あの…姉上。マイルレンス姉上は…」 「ここですわ。レイレス」  マイルレンス、と呼ばれたその顔も、二人と同じ顔と声をしていた。レイレスと二人の姉姫が振り向く。そこには、銀の髪を結わえた騎士を従え、マイルレンスが立っていた。 「私が一番にレイレスを見つけたのよ。窓を開けたのも私。ねえ、ファーロ?」  ファーロ、と呼ばれた騎士を見るなりレイレスは肩を震わせた。 「レイレス様。『下界』へは私をお連れになってくださいと、あれほど…」  声音こそ穏やかであるが、眼帯に覆われた顔、その片方の瞳は深い青を湛え、鋭い輝きを潜ませていた。  レイレスは知っていた。こんなとき、どれほどこの側仕えの騎士が怒っているのかを。 「ご、ごめん、ファーロ。…眠れなかったんだ。朝日が夜明けが美しい季節でもあったし」 「確かに、夜明けが美しい季節になったわよね?ね?姉様」 「ねえ」 「ねえ」  それぞれに頷く姉姫達は、いつの間にか花を持ち寄り、ファーロを前に固まってしまったレイレスの髪に飾りを施していた。
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