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「おい。下手くそ」
その声とその言葉に俺は慌てて俯けていた顔を押し上げ、再び体育館の中へと目を向けた。
雛人・・・。
雛人は仰向けに寝転がった春海の横に立って薄い笑みを浮かべていた。
「・・・下手とか言うな」
怒った風もなく春海が言った。
「悪い。下手じゃなかったよな? お前は『ド下手』だったよな。そんなに下手なら辞めろよ。バスケ」
雛人のその言葉に俺はドキリとさせられた。
いくらなんでも言い過ぎだ。
それにいくら優しい春海でも怒りかねない・・・。
俺はひやひやしながら二人の様子をこそこそと窺っていた。
喧嘩にならないだろうか?
もし、喧嘩になった場合、俺は二人を止められるだろうか?
しかし、そんな心配は無用だった。
「ひどっ!! 雛人、サイテェー!!」
春海はそう言うとムクリと上半身だけを起き上がらせ、いつもと変わらない明るい笑みを満面に浮かべて雛人を見つめていた。
雛人はそんな春海にふっと微笑み掛けると同時に春海にスッと右手を差し出した。
春海は差し出された雛人のその右手を掴み、再び立ち上がった。
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