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ゴトーの新作は、トリュフだった。一粒ずつ色鮮やかなラッピングがされている。また一つ包みを開けながら彼が問うた。
「花嫁修業、どんな感じ?」
「どれも難しい。勉強とは勝手が違って」
「ピアノは今なに弾いてんの?」
サラは、譜面台に置いていた楽譜を差し出す。すると彼は腰を上げ、口をもぐもぐさせながら演奏を始めた。簡単そうに弾く姿に、彼女は思わず毒づく。
「……むかつく」
「なんで!?」
「私は四苦八苦してるのに」
その言葉に、アスタは少し考えこむ。
「サラ。この曲、練習してどのくらい?」
「1週間くらいかな。でもまだ他の曲の練習をしてて、この曲は先生の前で弾いたことない」
「ちょっと弾いてみ」
「え?」
サラは首を振った。
「やだ」
「なんで?」
「……笑わない?」
「面白かったら笑う」
不安そうな彼女に、はっきりと言い放つ。サラが嫌そうな顔をしたのを見て、アスタは小さく笑った。
「でも、間違えたくらいで笑わねェから」
そう言って椅子から立ち上がる。サラは渋々腰かけた。アスタがすぐ後ろに立っている。近い。彼女は思わず後ろを振り返った。しかし、彼は真剣な顔で譜面と鍵盤を見ていたので、文句を言うのを止めた。邪な理由からではなかったのだと、少し反省した。
サラはピアノを弾き始めた。手が止まることはほぼないが、よく弾き間違える。
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