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「ふんふん。なるほど」
弾き終えると、アスタは頷いて楽譜を指さした。
「ここ、どの指で弾いてる?」
「えっと。薬指か小指、かな?」
「サラの場合、きっちり決めた方がいい」
彼女の答えに、アスタは言い切った。サラが驚いて振り返ると、彼は真剣に答えた。
「指の動きは自体は悪くない。ただ、ここをどうするかで、後半の指の動きも変わる。どの指で弾くか、サラ自身も曖昧だから弾き間違えんだよ。感覚じゃなく、理屈で覚えるタイプのサラは、どの指で弾くかまで決めてから練習した方が早い」
「…………」
「なに?」
まじまじと顔を見られていると分かり、アスタは首を傾げる。彼の言葉に、サラは思わず赤面した。今の助言は、技術的なアドバイスではない。サラ個人の性格からのアドバイスだ。よく私のことを見ている、とサラは気恥ずかしくなった。彼女は慌てて首を振る。
「な、なんでもありません」
「あ」
サラが怪訝な顔をすれば、彼はにたーっと笑った。
「はーい。キスいっかーい」
「は!?え?」
「ほれ。早く」
アスタが楽しそうに目を閉じる。サラは思わず右往左往するが、しなければ彼が怒るのも経験済みだ。腹を決めて、彼の頬にキスをする。目を開けたアスタは、嬉しそうに笑ってキスした。
「お返し」
彼女は独り言ちる。――結局いつも1回じゃない。
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