539人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
アスタはまたチョコレートを置いた場所に戻っていく。その背に彼女は訊ねた。
「リチャードさんは?引継ぎ、あまりちゃんと出来なかったけど、困ってない?」
「ん?」
彼はまた包みを開く。もう夜だというのに、まだ食べるのか。
「まぁ、リチャードは、特に何にも言わなくてもやってくれるからな」
「新しい人が決まったら、また引継ぎが大変だね」
「新しい人?」
アスタが首を傾げる。その反応にサラの方が驚く。
「だって、私、側近辞めちゃうんだよ?リチャードさんも今だけで、代わりの人がそのうち決まるでしょう?」
「え?俺、サラに側近辞めさせるつもりねェよ?」
「え?」
彼女が目を丸くすれば、彼はいたずらっ子のように笑った。
「いいじゃん。俺の側近で、俺の妻で、俺の嫁」
「二つ被ってる」
「細かいこと気にすんな」
からからと笑い、アスタはまたチョコレートの包みを開き、今度はそれを彼女の口元に差し出す。
「今はサラも忙しいだろうから、側近の仕事は暇をやっただけ。リチャードだって仕事はできるけど、それでも俺の隣は、サラがいい。優秀な側近を手放す気はねェよ」
――あぁ。なんてことだろう。彼女は目頭が熱くなった。この人は本当に、私を甘やかす。私の嬉しい言葉を分かり過ぎていて困る。サラは向けられたそれに、素直に口を開けた。甘い匂いが鼻を通っていく。
「ありがとう」
「いいえ」
アスタは嬉しそうに笑った。
最初のコメントを投稿しよう!