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サラはアスタを見つめる。胸の奥からじわじわとくる、それ。サラは思わず口にしそうになり、だが恥ずかしくてそれを抑え込んだ。しかし、アスタは目ざとく彼女の変化に気づく。
「どうした?サラ?」
「なんでもない!」
「……本当に?」
「本当に!!」
彼女が声を荒らげたら、彼はくすくすと笑った。
「サラ」
アスタが手広げ、彼女を促す。
「おいで」
サラは迷って、でもやはり抑えられなくて、彼の腕の中に入ってく。するとアスタは、彼女をぎゅっと抱きしめた。アスタは、私がぎゅっとしてもらうのが好きなことを知っている。そして、そう言えないことも知ってる。でも彼は、わざと不満そうな口調で言った。
「サラのおねだりは歓迎なんだけどなー」
「…………」
「もっとすごいおねだりも歓迎なんだけどなー」
「うるさい」
「サラ」
アスタは彼女の髪を撫でた。
「俺、寂しがり屋だから、たまには俺に会いに来てね」
彼女ははたと気づく。お菓子持ってきた理由は、それだったのかと。確かに最近レッスンが忙しくて、全然会っていなかった。でも、きっと今の言葉はそれだけじゃない。『抱きしめて』も素直に言えない私に、暗にこの人は言っているのだ。『いつでも会いにきていい』と。
胸の奥からまた、じわりと溢れ出す気持ち。サラは、目の前の彼を服をきゅっと掴んだ。
「善処します」
「あ」
アスタは敬語に気づいて、彼女の顔を見下ろす。しかし、サラはうつむいて顔を上げない。
――あ、ずるい。今のはわざとか。
アスタは小さく笑い、サラの顎をすくう。恥ずかしそうに目を潤ませる彼女と目が合った。
「……お望みのままに。お姫様」
王子様は、お姫様に優しくキスをした。
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