俺の姫様に愛されたい

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マダムは一瞬だけ驚いたような顔をして、また微笑んだ。サラは違う男性とまたホールドを組み、踊り始める。マダムは訊ねた。 「それで?王子からすれば、姫はどうかしら?」 「ぎこちない」 アスタは彼女のダンスをばっさり切り捨てた。と同時に、眉をひそめる。 「ってか、一人の時より下手になってねェか?リードしてもらえるから、初心者のサラなら、上手く踊れてるように見えるはずなのに」 「さすが王子。目ざとくていらっしゃる」 マダムは、戸惑いながら踊る彼女に視線を送る。 「サラに男性経験は?」 「は?」 アスタのこめかみが引きつる。 「……ねェよ。あったら殺す」 「まあ。怖い」 鬼の形相で吐き捨てた彼に対し、マダムはおかしそうに笑う。 「でも、だからこそ難しいんでしょうね」 そこで今日初めて、アスタはマダムの顔を見る。彼女は心配そうにサラを見つめていた。 「社交ダンスは、男女が密着して踊るもの。ホールドがきちんと出来ていなければ、美しく見えないし、相手のリードを受け取るのも難しい。だからぎこちなくなってる。ということで――」 そこで言葉を切った彼女は、爽やかな笑顔をアスタに向けた。 「ご協力いただけないかしら?」 怪訝な顔をする彼を余所に、マダムは演奏を弾く者の手を止めさせ、彼女に向き直った。 「サラ。次は王子と踊って」
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