俺の姫様に愛されたい

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ようやく顔を上げた彼女を見て、アスタは歩き出す。サラは手を引かれ、後ろをついてくる。右に左に、適当にフロアを歩く。アスタが彼女を振り返れば、二人は足を止めた。彼は手を解いた。 「こういうことだ」 『どういうことだ?』とサラが思いきり不思議そうな顔をする。アスタは彼女に訊ねた。 「サラ。今なんで歩き始めた?」 サラは怪訝そうにしながら答える。 「アスタがこっち来いって顔したから」 「俺が歩く方について来たのは?」 「アスタがそっちに手を引くから」 「止まったのは何で?」 「アスタが止まるぞって顔したから」 「そういうことだ」 サラは目を瞬かせる。彼の意図が何となく分かったのだろう。アスタは彼女に微笑んだ。 「社交ダンスはリード&フォロー。男が示した道に、女がついて行く。ステップ踏んだり、回ったりするけど、理屈的にはさっきのと一緒だ」 そうして彼は、先程と同じように腕を開く。 「俺の顔を見ろ。リードを全身で感じろ。それを全部、汲み取れ。俺のフォローは得意だろ?サラ」 彼の笑みに、ふとサラの肩の力が抜けた。サラがアスタのホールドに入る。ベストポジション。今度は彼の顔をしっかり見ている。 ――そうだ、サラ。余計なこと考えんな。ちゃんと俺が道を示してやる。しっかりついてこい。 音楽が鳴り、二人は踊り始めた。その二人の姿に、マダムは思わず息をもらした。 サラの技術はまだ拙い。だが、王子のリードをきちんと受け取り、返せている。それは紛れもなく二人の信頼関係がなせる技。そして何より、お互いを見つめる二人の幸せそうな表情。……それは、見ているこちらまで幸せな気持ちにさせる。 音楽が鳴り止む。見ていた人間全員から拍手が挙がった。 「素敵だったわ!サラ!」 マダムの言葉にサラは目を輝かせ、彼を見る。アスタもまた嬉しそうに微笑んだ。
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