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その日の夜。アスタの部屋のドアが遠慮がちに叩かれた。『どうぞ』と彼が声をかければ、ドアの隙間からサラが顔を出した。
「アスタ。今いい?」
「サラ?」
彼は慌てて立ち上がり、彼女を出迎える。
「どうした?」
「あ、えっと。話があって……」
サラはうつむき、不安そうに手を擦る。だが、アスタの方は少し、いやかなり浮き足立っていた。サラが自分の意思でここに現れたからだ。アスタは彼女にソファーを勧める。二人は並んで腰かけた。
「あの、アスタ」
「うん」
「えっと。あの……」
意を決して、サラは顔を上げ、話し始めた。
「会いに来れなくてごめんなさい。ちょっと、会いに来づらいことがあって。その……マリーナ様に『サラはいつこっちに来る?』って聞かれて」
「こっち?」
アスタは首を傾げる。
「私は今、家来みんなが借りてる宿舎にいるでしょ?」
「うん」
「今まで不便じゃなかったから、何とも思わなかったんだけど。この前マリーナ様にお会いして、聞かれたの。その……『サラはいつアスタの部屋に来る?』って」
アスタは思わずフリーズし、サラは赤面する。うつむきながらも、彼女は説明した。
「その、マリーナ様は婚約が決まった時には、国王様と同室だったらしくて、私にどうする?と……」
羞恥に震えながら、サラは視線を上げた。
「……ど、どうする?」
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