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「好きだ」
その言葉に、彼女は顔を上げる。アスタが優しい瞳で、しかし悲しい表情をして、サラを見つめていた。彼はもう一度、言葉を紡ぐ。
「好きだ、サラ」
碧く光る瞳が、真っ直ぐ彼女を見つめていた。その瞳が澄んでいて、嘘ではないのだと、本当のことなのだと、事実なのだと、否が応でも彼女に理解させた。アスタはサラの頬を撫でる。
「これから先も……ずっと、ずっと好きだ」
――その瞳から、サラは目が離せなかった。
これほど彼の愛が大きいものだとは知らなかった。これほど彼の愛が優しいものだとは知らなかった。これほど彼の愛が切ないものだとは知らなかった。
そして、これほどの彼の愛をもらって、こんなにも悲しいだなんて知らなかった。
胸から溢れるものに耐えられなくて、サラは唇を噛みしめた。
「………………最低です」
唐突に彼女はアスタを罵るが、彼は文句の一つも言わなかった。
「うん」
サラは、どんどんとアスタの胸を叩く。彼は彼女の手を遮らない。それがまた、サラには切なかった。
「人をからかうにも、限度があります」
「うん」
「ばか。あほ。おたんこなす」
「うん。うん」
揺らぐ視界の中、彼女は彼を睨みつけた。
「…………アスタなんか、きらい」
「うん」
涙を流す彼女を、アスタは抱きしめた。
「ごめん、サラ。……ごめん」
震えながら彼女は、何故、今言うの?と思った。花嫁が決まれば、それこそ二度と言えないから?だから言ったの?でも、叶わないならどうして言うの?どうして隠したままにしてくれなかったの?たとえ両思いでも、私はただの平民。ただの家来。姫にはなれない。
アスタの告白が嬉しくて、しかしそれ以上に切なかった。彼女はアスタの腕の中で、唇を噛みしめた。涙が止まらない。その彼女をアスタはきつく抱きしめる。サラは彼の服を掴んだ。
――今だけ、泣いている間だけ……。
彼女は彼の腕の温かさに甘えた。今だけは、この瞬間だけは、王子にではなく、アスタに抱きしめてもらいたかった。
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