547人が本棚に入れています
本棚に追加
アスタの誕生パーティー開始直前、二人は忙しく来場者の対応に追われていた。貴族がアスタのもとに現れて、挨拶していくのだ。
サラはどちらの令嬢なのかを彼に囁き、アスタは愛想よく言葉を返す。令嬢たちも彼へのアプローチに必死だ。しかし、一人一人にまともに声をかける時間はなく、慌ただしく過ぎていく。エミリアも声をかけた程度で、長く話はできなかった。
サラは、昨日のドレスを身にまとい、髪をアップにした。鏡の中の自分を見た時、王子の側近として勤めを果たさねばと思った。
ラッシュが騎士として警護に、テオとオリヴィアとヘレンが、招待客として参加しているのにサラは気づいていたが、彼らに声をかける余裕もなかった。
パーティー開始の際には、国王とアスタ王子が挨拶する手はずになっている。係りの者が、アスタに声をかけた。
「分かった」
アスタは令嬢たちに断りを入れ、壇上へと歩いていく。その背中に、サラもついて行く。ジョンズ国王と、マリーナ王妃が待っていた。係りの者に促されて、国王が壇上へ上がる。
「サラ」
ふいに声をかけられ、サラは顔を上げる。階段の途中で、アスタが彼女を見下ろしていた。
「今から俺がすることを、許してな」
「え?」
アスタは向き直り、そのまま階段を上っていった。……その言葉の意味を問えなかった彼女の胸の内には、大きな不安だけが残った。
三人が壇上に上がると、マスコミたちの構えたカメラのフラッシュが光る。タイミングを見計らい、国王が手を挙げれば、皆静かに彼の言葉を待った。
「皆様、本日は我が息子、アスタの誕生パーティーに出席していただき、誠にありがとうございます」
最初のコメントを投稿しよう!