セミとモグラ

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 日暮れを忘れて鳴くアブラゼミは、かくも耳障りなものなのか。 小走りで家路を急ぐ私の耳に入ったそれは、胸の奥をざわざわと掻き立てた。  世間は盆休み真っ盛り。 にもかかわらず、私は通常出勤。それどころかシステムトラブルに見回れて、職場を出る頃には日付が変わってしまった。 この仕事に盆暮れはない。システム保守業者のツラいところだ。 近い未来、人間がそんなツラい仕事をしなくても良くなると言うが、そうは言っても生業だ。 AIやロボットがこの仕事を肩代わりしてくれるような未来など想像したくもない。 「終電、間に合うか……?」 緩い坂道を駆け下りながら、時折クォーツ式の腕時計の長針を垣間見る。  夜といえども、8月13日の真夏。 熱帯夜の中、人通り少ない道を汗をにじませてひた走る姿は、端から見たらどこぞの酔狂か。 「おっと、もう日付が変わってたな。」 くだらない思い違いに、自嘲気味に薄笑いを浮かべる。  急いだところで午前様。 いっそのこと、あと五分トラブルが長引いてくれれば、諦めてオフィスに泊まるかタクシーで帰ったのに、と自分の優柔不断さを棚に上げる。
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