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地下へと潜る入り口を見つけると、点灯した看板の照明が私を迎えてくれた。
「良かった、間に合いそうだ。」
地下鉄の入口へと入ると、そこは一転、空調の聞いた別世界。
先程までのじっとりと纏わりつくような夏の夜の空気がウソのような快適な世界が広がる。
まだ地下鉄が営業中であった安心感と快適な空間が、歩け歩けと私の心を揺るがすも、ここで手を抜いては終電を逃してはお伽話のマヌケなウサギ…と、自分自身に活を入れ、下りの階段一段抜かしで駆け下りる。
アブラゼミの皮肉なエールはそんな私の背中に突き刺さっていた。
奴らに感情があったなら、地下に潜る今の私はどんな風に映っているのだろうか。
自嘲気味な薄笑いを浮かべながら、私は改札前へと着くと駅員のアナウンスが流れてきた。
『間もなく当駅始発の最終列車が参ります。
お乗り遅れの無いようお気をつけ下さい。』
ーー今度こそ間に合った。
私は改札を通り抜けながら心の中でガッツポーズを決めていた。
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