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「もうビールないからね。焼酎で我慢しなよ」 「嘘だろ」 「ビールばっか飲んでるからそんなお腹になるんだよ。たまには自粛したら?」 「お前、ほんと可愛くねぇ」 「そう思うなら来なきゃいいのに」 嫁に甘やかされて、出されるものを出されるままに食べて飲んで、好きなものばかりを取り続けてきた七生。それをただただ、馬鹿だと思って見てきた未生。 たるんだお腹を見るたびに、未生は苛立ちが募っていた。七生を駄目にした嫁に対しても、そんな嫁に甘えて自分を駄目にした七生にも。 「たまには、どっか行く?」 機嫌を窺うように、七生がそう切り出した。 「どっかって、誰かに車見られたら困るんじゃないの?嫁、同じ職場なんだから知り合いも多いんでしょ」 「まぁ。だから、ほら、地下鉄に乗ってさ」 「地下鉄?」 「ここも、俺んちも職場も。全部郊外じゃん?電車から地下鉄に乗り換えて、どっか出掛けるやつなんて今更いないだろ。みんな車持ってるんだし」 「明日、起きたら帰るって言ってあるんでしょ?」 「今日、俺帰らないって知って実家に帰ってるんだわ。孫の顔見せに」 「ふーん」 嬉しい気持ちを隠して、未生はそう返した。 お互い、好きだと伝えたことは一度もない。二人がこんな関係になったのは、お腹に子供がいる嫁のせいで溜まった性欲を持て余している七生を、未生が遊び半分に誘っただけ。断られたとしても冗談だと笑って流せる程度の彼女の誘惑に、七生はいとも簡単に乗ったのだった。 「ふーん、でなく。行くの?行かないの?」 「分かってて聞くの、どうかと思うけど」 「お前の素直じゃないところこそ、どうかと思うよ」 「…行く」 分かりやすいほどの挑発に、未生は消え入りそうなほどの声でムスッと返した。満足そうに彼はそれを見て笑う。 「だから嫌いなのよ」 「え?」 「甘ったるいものが嫌いだって言ったの」 少し意地悪に、それでも未生を甘やかす彼と、彼を甘ったるいほどに甘やかした嫁。未生は、甘ったるいものが嫌いだった。絶対に自分のところに来ない相手に、想いを寄せてしまう甘えた自分も同様に。 甘くなどないはずの、甘ったるい夜。
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