お仕事

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マキは想像を絶する案件に戸惑ってしまっていた。次は犬捜索と勝手に思ってしまっていたものだから、招待客ならありかもしれないが、晴れの舞台のヒロイン役だなんて上手く演じられるものだろうかと今夜眠れないかもと不安を感じながらも、「私にできるのでしょうか。」と思わず叫んでしまっていた。保博さんと名乗る人も「できますとも。」と大声で叫んだ後に「失礼致しました。もし引き受けて頂けましたら、マナー教室に1週間通って頂けますか?費用を依頼料とは別途御支払いたします。決して貴女がマナー違反しているわけではなくて、受けた方が緊張感が軽減されるのでは。」とマキの寝癖ついたままのヘアを見ながら微笑んだ。マキは考えながらもやらない訳にはいかない。ここで辞めたら女が廃ると、ついに返事をした。「勿論お引き受け致します。お任せ下さい。」と自信ありげな表情をしながらも今夜なかなか寝付かれないかもと不安を残しながらも相手に紹介されたマナー教室に午後から出掛けてみることにした。1週間しかないために、他の仕事は出来ずにお休みにして、保博の依頼を優先した。幸い教室は事務所から徒歩で通えて便利だった。大学のフランス語学科卒のマキは幸運だった。仏会話は得意だった。フランス人も招待していた。但し、そそっかしい性格は果たして1週間では微妙ではあった。特に御令嬢とかの設定はなく、パリで出逢った女性というだけの一目惚れ設定だった。マキの両親や身内はヨーロッパ在住のため欠席にするので大丈夫だった。ほんの三時間のお芝居なのである。ドレスも保博が用意するので安心した。マナー教室ではパーティーの心得も入っていた。 大学の同期生との飲み会しか体験がなく、友達や身内の結婚式には出席した事はあるが、至って平凡な有り触れた式であり、お金持ちのパーティーなんかは経験がなく、脚がガクガク震えてしまったらどうしようかと考え過ぎになってしまっていた。
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