お仕事

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マナー教室最終日になり、明後日は本番当日となる。明日は保博の家族との打合せで夕食を共にとなるのだが、まあ本当の新しい家族になるわけではないのだから、緊張しなくても良いようには思うが、自分自身の立ち上げた仕事の評価はしっかり左右されるものではあるし、胸の高鳴りは抑えきれなかった。帰宅してから両親にも仕事の説明をした。彼らは仕事は大事と納得してくれていた。 翌朝になり依頼人の身内と会うのは夜からなのに起床するや否やソワソワしてしまっていた。確かに二番目の仕事は最初のとは違っていたし、マナー教室も簡単な基本的な事だけだったから、あまり自信はなかったが、やるっきゃないの心意気で気合いを入れた。お向かいのお爺ちゃんのユキちゃんが窓辺に座っていて、ユキちゃん応援してねと祈るような気持ちで新宿の我が事務所の神棚に祈り、夕方になるのを待った。保博が車で迎えにやってくることになっていた。約束の時間にドアをノックしたのは例のイケメン秘書だった。「支社長が車内で待って居りますからお迎えに参りました。」今夜のドレスやバッグ、靴もアクセサリーも用意してくれていた。もはやマキは何でも屋には見えなかった。深窓の令嬢のごとく、保博の隣に厳かに、まるで恋人のように静かにシートに腰掛け、胸の高鳴りと共に夕食会場へと運転手付きの車は夜の帳が下りたばかりの東京の宝石のように光る街明かりの中を走り続けて行った。 そうしてホテルの前に到着し、この何とも摩訶不思議なカップルは取り留めの無い話をし終え、親族の待つレストランへと依頼人にエスコートされながらカクテルドレス姿の何でも屋マキはコケないように彼の腕の中でひとときの夢に浸っていた。
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