お仕事

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レストランに入ると保博の両親が先に待っていた。「初めまして。」のマキの挨拶に父親が「あっ、分かっているから緊張しなくても大丈夫。難しい挨拶なしで、ワガママ息子を宜しくお願いします。まあ今夜はゆっくり夕食味わって下さいね。」母親も「ごめんなさいね。御無理言ってしまって。」と気さくな両親だった。「いえ、私は仕事ですので、お引き受け致しました。」とマキはドキドキしながら言った。保博は「まあ気楽に今夜は楽しく過ごして下さいね。」と皆と言っても一人息子であり、今夜は父母と保博とマキだけのまるで新しい家族になるような四人であった。段々とマキはリラックスしてきて、優しい三人の気遣いに深い感銘を受けながら、楽しい他人とは思えないような雰囲気を感じ取りながら不思議な感覚で食事を終え、保博の父が「マキさんと二人で上の階のバーで明日の打合せをしたらいいんじゃないのかな。」との配慮で、少しカクテルを飲みながら学生時代やOLを辞めた事、保博も家族の話やら楽しげに語り合った。そして、マキの家まで送り、マキはこれが仕事なのか、いや仕事なのだと自分自身を納得させていた。今夜はまるで天蓋付きベッドにでも眠る気分で深い眠りに就いた。耳元に残る保博の「明日は宜しくお願いしますね。」の言葉が夢の中では「マキちゃん好きだよ。僕と交際して下さい。」に何故か聞こえてきて、「はい。」と返事をした声で目覚めてしまった。ついに緊張の朝がきた。「なんだ夢だったのか。」少しガッカリしている場合じゃない。朝一エステと午後からは美容院行かなくてはならないのだ。これも依頼人の希望だった。全て支払いはあちらであり、エステなんてお試しの短時間コースしか体験がなかった。全て終わり、スッキリ気分になり疲れが取れて溜息をつきながら、保博さんの奥様になる女性は、どんな人なんだろうかと一瞬思い浮かべてしまったら、涙がスーッと?を伝わってきていた。こんな事を考えてはいけない。カボチャは馬車にはならないし、ガラスの靴は履いた途端に砕け散るのだからと今夜は完璧に婚約者を演じようと決意した。私は恋してしまったのかしらとマキの脳裏の片隅に恋という字を消せないままに時間は過ぎていった。
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