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緊急停車
「どーも、みち子です。はじめまして」
「井上です。えーっと、今日はヨロシクね」
SNSで知り合った女子高生、みち子は私が思った通り淡々とした少女だった。ケバいギャルメイクと裏腹に冷めたメッセージを書いていた彼女と知り合ったのは三日前のことである。
立ち往生した地下鉄の電車内で絶望的な閉塞感を味わうため、私はある作戦を立てた。
まず人を雇い、電車の中で倒れてもらう。電車は当然急病人ということで止まり、後続の電車も停車を余儀なくされるのだ。
一見簡単そうな作戦であるが、大きな問題があった。電車が停車する場所である。
都会の地下鉄は駅と駅の間の距離が短く密集している。ゆえにホームで急病人が出て停車した際は、当然後続の電車は一個前の駅で止まり運航再開を待つ。
つまり、私の求める『トンネル内での停車』が行われないのだ。
「じゃあ、みち子は電車が動き出したタイミングでぶっ倒れればいいんですね?」
「うん、出来るだけ派手によろしくね! 乗客が緊急停止ボタンを押しちゃうくらい」
「オッケー。おもしろそーじゃん、任せといて」
ギャルメイクが割れるように微笑むみち子。不謹慎な笑顔が今は頼もしい。前金として一万円を渡すと、我々は地下鉄の改札を通過した。途中までは私も同乗する。
スマートフォンで連絡を取り合えればいいのだが、ピーク時の満員電車はそこまで甘くない。ましてや私は4Lボディ、走行中の電車では身動きひとつとれやしない。
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