地下鉄の窓

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「今日はいまいちだな」  帰りの地下鉄は肩がぶつかる程度には人がいたが、あまりにも物足りなかった。ため息をついて首を左右に振り、真っ暗なトンネルを進む窓に目を向ける。  立っている人間は多くが手にスマートフォンを持ち、下を向いていた。つまり、まだそれだけ余裕があるということだ。  そんな中、私は一人の男性に目を奪われた。  窓に映る景色の中で、その男だけはなんとも苦しそうにまあるい顔をゆがめ、大量の汗を流している。全身で窮屈ですと訴えているような男は私が窓越しに凝視していることに気づくこともなく、ふんふんと鼻息を鳴らして暑そうにあえいでいた。  なんて、みっしりしているのだろう。彼の周囲だけ密度が凝縮されている様な狭さである。男性は、大層太っていた―― 「そうか、これだ……!」  思わず声がもれた。  身体が大きければ大きいだけ、相対的に電車の中が狭く感じられる。混雑すればするほど、人とぶつかり苦しいに違いない。どうして今まで気づかなかったのだろう。 「太れば、もっとみっしり……」  その日から私の体重増加活動――デブ活が幕を開ける。
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