地下鉄の窓

3/3
前へ
/13ページ
次へ
「井上さん、今日はがっつりですねー」  私の前に置かれたダブルとんかつ定食大盛りを見て、木下が声をあげた。  デブ活開始から二週間、もともと食が細くやせぎすだった私の身体にも次第に脂肪がつき始めた。しかしまだまだ理想の脂肪とは程遠い。夏本番が訪れる前に、もっともっと太らなくてはいけなかった。  デブ活開始と同時に、私はとにかく食べて食べて食べまくった。  脂っこいもの、カロリーの高いもの、甘いもの、炭水化物。ありとあらゆる太りそうなものを、出来るだけよく噛まずに飲み込んでいく日々。  目指すはより太い身体。  当初は相撲取りのような食生活を考えもしたが、あの素晴らしい体躯は厳しい稽古の賜物である。私のような一般人が一朝一夕でまねれるものではない。ならば、とにかく常にカロリーを摂取し続けるしかないのである。 「いただきます」  今夜の夕食と寝る前の夜食は何にしようか。口いっぱいにとんかつをほおばりながら、私は理想のわがままボディを思い描いていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加