4LとOL

2/3
前へ
/13ページ
次へ
 女性は言葉にならない声をあげる。無慈悲な駅員は何も聞こえないかのように彼女を車内に押し込んでいく。  前門の4L、後門の駅員。  進退きわまったOLの目の前で無情にも電車のドアが閉まった。彼女は私の肉の揺り籠に包まれたまま、しゅうまいのグリンピースのような時間を過ごすことになった。  もちろん、乗車率200%を超える車内で私の大きな身体が無事なはずはない。前後左右、あらゆる方向から押しつぶされ、もみくちゃにされた。そのすべてを。分厚い肉襦袢で受け止める。  窓ガラスに、私と私の豊満な身体に溶け込んでしまいそうな華奢な女性が映る。肉の海を経て溶け合うかのような時間の、なんと甘美なことか。  私、OL、そして乗客。全てがひとつに。オールインワン。なんて、みっしりなのだろう。 「はぁ……んふ……ふしゅ……」  私が恍惚のため息を漏らし始めたころ、地下鉄は次の駅へ滑り込んだ。そこで事件は起きた。  私の肉布団に埋もれていたOLが、ドアが開くとともに倒れてしまったのである。  幸い私が痴漢と思われることはなく、女性の体調不良ということでこの件は処理された。とはいえ電車はその駅で20分近く停車し、おかげで人生で初めての遅刻を経験してしまったのである。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加