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遅延証明書を受け取って出社した私は、停車した電車の様子を思い浮かべデスクの前でうっとりとしていた。
電車は走るに走れず、乗客は降りるに降りれず。
思うさまにいかない苛立ちがむさくるしい熱気に変わり、車内は人いきれでむせ返るほどであった。もしもぎゅうぎゅうの満員電車が、地下鉄の暗いトンネルのど真ん中で緊急停止なんてしてしまったら――。
「んふう……ひゅう……」
想像しただけで、呼吸が荒くなる。
なんとかして、そんな状況を作り出すことが出来ないだろうか。緊急停止ボタンを押せば可能かもしれないが、非常識な行動は私の倫理観にも背くものだ。
なんとかして味わいたい。満員電車 緊急停車。
そんな最高のシチュエーションを夢想して、私はデスクを大量の汗で濡らす日々を送っていた。
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