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そして。
羽海はドレスも着たかった。
……と、言うよりも、ブーケトス、と言うものをやってみたかったのだ。
昔、通った岬で。
簡単な作りの鐘を立てて。
岬の先で、ふたりの永遠の誓いを交わした。
そして。
周りで黄色い声をあげる女達に背を向けて。
手には花束。
聴こえてくる、潮騒の調べ。
それが、まるで結婚式を盛り上げる音楽のように聴こえて。
ぎゅっ……と花束を握りしめ、目を閉じる。
女達が、身構える。
羽海は……
背中の女達には目もくれず、真っ直ぐ前に。
海へと花束を投げ入れた。
えぇ~……と残念そうな女達の声を背に。
(お父さん……私はこんなに大きくなりました。育ててくれて……ありがとう。私は……こんなに幸せです。)
心の中で、父に礼を言った。
少し強めの海風が、正面から吹いた。
少しよろけた羽海を、彼が抱き止めた。
それはまるで、
「辛気くせぇこと、言ってるんじゃねぇ!いつまでも泣いてるんじゃねぇ!……情けねぇやつだな!……おい、娘を頼んだぜ。しっかり、守ってやってくれ!」
そう言いながら、父が彼に向かって私を押してくれたようで……
羽海はぐいっ……と涙を拭う。
「もう……泣かないよ。私は……こんなに幸せなんだから!!」
潮騒の調べに、声がかき消されないように。
遠くにいても、聞こえるように。
大きな声で、海に叫んだ。
透き通るような青空。
濃いブルーの、海。
2色のコントラストが、一生忘れられない写真のように、羽海の瞳に、焼き付いた。
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