潮騒の調べ~少女は、願う~

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それから3日後の事だった。 今日も、岬で花を投げ入れる、羽海。 「羽海ちゃーーーん!!羽海ちゃん!」 そんな羽海のもとに、父の友人だった漁師が走り寄ってくる。 「おじさん……漁は?」 「それどころじゃない!……お父さんの船が!」 羽海の、血の気が引いていく。 『お父さんが』ではなく、『お父さんの船が』。 それが何を意味しているのか、容易に想像できたからだ。 「早く!ついてきて!」 羽海の答えも待たず、漁師は走る。 羽海もその後を追った。 港から少し離れた岩場。 そこに、父の船があった。 既に何人かの漁師が、船を安全な場所へと運んでいた。 「あ!羽海ちゃん!こっち!!」 羽海を見つけた若い漁師が、手を大きく振って羽海を呼ぶ。 「お父さんは?……お父さんは!?」 乗っていないだろうと思っていた。 乗っていて欲しくないとも、思った。 「ごめん……見つからなかったよ。」 その言葉に、安堵と落胆が交互に訪れる。 乗っていたら、父の死を認めることになる。 でも、見つかって欲しかったのも、事実。 立ち尽くし、船を見つめる羽海。 「…………?」 そんな羽海の視線の先に、何か光るものを見つける。 「ちょっ……羽海ちゃん!危ないよ!!」 羽海の足は自然と船に向かい、光るものへ手を伸ばしていた。 ようやく手にしたのは、ネックレス。 父が肌身離さず、着けていたもの。 小さな箱にチェーンをつけただけのもの。 羽海はいつも、 「ダサいよ、それ」 と、突っ込んでいたのだが、 「これは男の……いや、俺の夢とロマンが詰まってるんだ!」 と、笑ってあしらわれたのを思い出した。 そんな、『夢とロマン』だけ、船に置き去りにした父。 「……これ、貰っていきます。」 ネックレス『だけ』見つかったことが、父は………もう帰ってこないのだろうと、理解した。 「……ただいま。」 家に帰り、父の部屋へ向かう。 父の写真立ての前に、ネックレスを一度置き…… 小さな箱の中身が気になった。 開けてみようと手に取る。 簡単な造りの、小さな箱。 引っ掛かっている鉤を捻ると、簡単に箱は開いた。 よく、荒波の中で開かなかったものだ、と中を見ると…… 羽海の写真が入っていた。 濡れないように、しっかりとビニールでくるまれていた。 そんなビニールの中に。 小さな鍵が、入っていた。
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